味は良いのに何らかの理由で利用されない、つまり流通しない魚、「未利用魚(みりようぎょ)」をご存知ですか?未利用魚は、豊かな水資源に恵まれた日本ならではの課題です。
未利用魚には、地元の人だけが知る美味しい魚や、高級魚も含まれます。魅力たっぷりの魚が利用されていない現状はとても「もったいない」ことなのです。
この記事では、未利用魚について詳しく解説します。有効活用に向けた活動や、未利用魚が持つ可能性もご紹介します。この記事を読めば、きっとあなたも、未利用魚活用のために何か行動したいと思うはずです!
未利用魚が利用されない6つの理由
ここでは、未利用魚が全国的に流通しない6つの理由について解説します。
1.規格外
未利用魚が流通しない理由の一つは、規格外だからです。魚市場では、魚介類を効率良く流通させるため、重さの規格が定められています。例えば、タイの場合「2キロのタイが5匹で10キロ」が一つの単位です。
規格より大きすぎる魚は個人の消費者には売れず、小さすぎる魚は処理や加工に時間がかかります。このような理由で、規格から外れた魚は「はんぱもの」と呼ばれて、未利用魚となってしまうことが多いのです。
2.見た目が悪い
見た目が悪いという理由から、未利用魚になることもあります。形が悪かったり、他の魚に噛まれた跡があったりすると、商品価値が下がってしまうのです。
未利用魚に、見た目が良くない深海魚や、カラフルで美味しそうに見えない魚が多いのはこのためです。
3.漁獲量が少ない
漁獲量が少ないことも、未利用魚になる原因の一つです。獲れる量が少ないと、出荷や物流にかかる費用で原価割れしてしまうからです。
日本では、鮮度を維持しながら、短時間で大量の魚介を全国流通させることが求められます。消費地において収益性の高い定番商品が優先されることから、漁獲量が少なく安定しないマイナーな魚は、未利用魚となってしまうのです。
4.知名度が低い
知名度が低いために流通しない魚も多くあります。また、「美味しくなさそう」というイメージだけで、食べてもらえない魚もいます。捌き方や調理法が知られていないため、売れない魚も同様です。
このような魚の場合、漁師や地元の人は美味しさを知っていることが多く、認知を広めることが課題です。魚の捌き方や調理方法を直接聞ける鮮魚店が減ったことも、知名度が上がらない要因の一つとして挙げられるでしょう。
5.扱いや処理が難しい
未利用魚の中には、トゲや毒を持った魚が多くいます。このような魚は処理が難しく、手間がかかるため、敬遠されがちです。
また、鮮度が落ちるのが早かったり、水揚げしてすぐに処理しないと臭みが出てしまったりする魚もいます。
6.船上や加工場における労働力不足
漁業関係者の数が年々減少していることも、未利用魚を活用できない大きな理由です。たとえ処理に手間のかかる魚であっても、対応できる人手があれば問題ありません。
しかし実際は、船上や、水産加工場における労働力不足で、加工に手間のかかる魚は対応できないのが現状です。時間を割いてもそれに見合った対価を得られないのです。
未利用魚を活用するための取り組み
嬉しいことに、今の日本には、未利用魚の現状を変えようと活動している人たちがたくさんいます。ここでは、未利用魚をいかすための取り組みをいくつかご紹介します。
生産者の取り組み
水産物を新鮮な状態で効率よく流通させるため、産地では、魚市場や卸売業者、加工場、漁協など、多くの関係者が関わっています。しかし、未利用魚は、様々な理由からこの流通システムに乗せにくいという問題がありました。そんな未利用魚だからこそ、既存の流通と競合しないというメリットもあります。
近年では、地元の生産者が未利用魚を加工、箱詰め、販売する6次産業化が多く見られるようになりました。6次産業とは、1次産業(農林漁業)と2次産業(製造業)と3次産業(小売業)をかけ合わせた取り組みのことです。
北海道標津町で活動している「波心会」では、漁獲から加工、販売までを、地元の現役漁師の手で行っています。波心会は「海の豊かさを後世に繋げていくこと」をポリシーに掲げ、標津産の未利用魚の加工を手がけています。
都道府県の取り組み
未利用魚の認知を広げるために、各自治体で独自の取り組みがなされています。特に、愛媛県、岡山県、静岡県、島根県、鳥取県などでは、未利用魚の加工技術開発や、商品開発に取り組んでいます。
また、国立研究開発法人水産研究・教育機構では、未利用魚の有効活用に関する勉強会を開催しています。当機構には、子ども向けのサイトや、YouTubeチャンネルもあります。未利用魚だけでなく、日本の水産業について気軽に調べることができるでしょう。
他にも、横浜市の小学校では、未利用魚が給食の献立メニューとなっています。
民間企業の取り組み
民間企業でも、未利用魚を知ってもらうために様々な活動が行われています。ここでは、未利用魚や未利用魚の加工品を購入できるネットショップをご紹介します。
未利用魚の通販サイト
ご紹介するのは、産地直送が人気の通販サイトです。ネット上ではありますが、生産者の顔が見える安心感があります。生の魚介類が送られてくるので、魚を捌いたり料理したりするのが好きな方におすすめです。
- 「食べチョク」
- 「ポケットマルシェ」
- 「産直アウル」
未利用魚のサブスク
こちらは、定額制で定期的に未利用魚が届くサブスクサービスです。FISHLLE!(フィシュル!)では、未利用魚の加工品が届くので、忙しい方や手軽に未利用魚をお試ししてみたい方におすすめです。
- 「FISHLLE!(フィシュル!)」
- 「らでぃっしゅぼーや」
未利用魚が持つ3つの可能性
ここでは、未利用魚が持つ3つの可能性について解説します。未利用魚を活用すれば、日本だけでなく、世界の将来のためにも未来にも繋がるのです。
日本の漁獲・養殖生産量の減少を食い止められられる
出典:水産庁|漁業生産の状況の変化
水産庁が公開しているデータを見ると、日本の漁獲・養殖生産量は1990年をピークに減少していることがわかります。未利用魚を有効活用できるようになれば、日本の漁業の衰退を止めることができるかもしれないのです。
未利用魚によって漁獲量が増えれば、漁業関係者の収入も増えます。さらに、漁業をメイン産業とする地域の活性化にも繋がるでしょう。
未利用魚は、日本の漁業を守る可能性を秘めているのです。
日本の食文化と和食の維持・発展に繋がる
未利用魚が流通すれば、今や肉食に押され気味な魚食に、光を当てることができるかもしれません。消費者としても、いろいろな魚が食べられるようになるのは嬉しいですよね。
また、種類豊富な魚食は和食の特徴でもあります。地域に根ざした新鮮な自然の恵みを頂く食事は、日本人の伝統的な食文化として、ユネスコの無形文化財に認定されています。未利用魚は、世界に誇れる和食文化を後世に繋ぐ役割をも担っているのです。
SDGsの目標達成に貢献できる
ご存知の通り、SDGsは、世界が掲げた「持続可能な開発目標」のことです。未利用魚は、これらの目標達成に貢献できる可能性も秘めているのです。
SDGsにある17個の目標の中でも、未利用魚の有効活用は、特に次の2つの目標達成に関係してきます。
- 目標12.つくる責任つかう責任
- 目標14.海の豊かさを守ろう
「目標12.つくる責任つかう責任」では、持続可能な生産と消費のバランスを形成することを目標としています。ここで問題となっているのが食品ロスです。未利用魚を活用できれば、フードロスを解消でき、目標達成に繋がります。
「目標14.海の豊かさを守ろう」は、海や海洋資源を持続的に利用するために掲げられた目標です。現在、水資源の減少が問題となっています。
未利用魚を活用できれば、特定の魚種に集中していた消費を分散させ、水産資源の枯渇を防ぐことができます。これにより、海の豊かさを守れるのです。
未利用魚普及のために消費者としてできること
ここまで読んでくださったあなたに、未利用魚の未来のために、消費者としてできることをお伝えします。
未利用魚について知る
まずは未利用魚について知ることからはじめましょう。「未利用魚にはどんな魚がいるのだろう」「美味しい食べ方は?」「未利用魚を有効活用するための活動には何があるのだろう」など、検索するとたくさんの情報が出てきます。調べるほどに、未利用魚の奥深さに惹かれていくかもしれません。
また、漁港のある地域を訪れる際は、地元の市場やスーパーの鮮魚コーナーを覗いてみるのもおすすめです。
未利用魚を食べてみる
気になる未利用魚があったら、まずは一回食べてみるのはいかがでしょうか。この記事でご紹介した、通販サイトやサブスクを活用してみてください。港町を訪れたときは、ぜひ地元の魚が食べられるお店に行ってみましょう。
今まで食べなかったことを後悔するほど、美味しい未利用魚に出会えるかもしれません。
未利用魚について情報発信する
美味しい未利用魚に出会ったら、ぜひ食べた感想を発信してみてください。友人や職場の人に話すだけでも、認知が広まるきっかけになるかもしれません。
購入したお店のサイトにコメントしたり、口コミを書き込んだりもできます。自身のSNSアカウントで発信しても良いですね。
未利用魚の存在を知らない人は、全国にたくさんいます。ぜひ積極的に情報を広めていきましょう。
未利用魚は可能性に満ちている!まずは知ることから始めよう
未利用魚は、味は良いのに理由があって流通しない魚です。しかもただ美味しいだけではありません。未利用魚は、日本の漁業や食文化を守り、ひいては地球の未来を明るく照らす可能性を秘めているのです。
そんな素晴らしい魚を利用しないなんて、「もったいない」と思いませんか?
まずはあなたが、未利用魚について知ることから始めてみましょう!この記事が、未利用魚に触れるきっかけになれたら嬉しいです。